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La Jaula 兎の罠

メキシコ映画 (2018)

監督フアン・パブロ・ブランコのデビュー作。監督は、脚本だけでなく、主役のヘラルド(大人)も演じている〔経費節約のため〕。ヘラルド(大人)は、何らかの “相手の女性の不祥事” を受けて 結婚式をすっぽかし、少年時代を送った田舎の家に逃げるように戻る。しかし、彼は過去においても、田舎の家で幸せだった訳ではない。母は夫と別居し、ヘラルド(子供)を連れて田舎の家に引っ越してきたところだった。彼は、そこで 気弱なクラスメイト、フェリペを通じて兎と友達になり、フェリペをひどい虐めから助けようとして母の拳銃を持ち出して問題となり、しかも、その拳銃を使ってフェリペが兎を撃ち殺したことで(死と初めて直接触れた)、大きな衝撃を受ける。大人になったヘラルドは、かつて住んでいた家で、少年時代を追体験する。監督によれば、兎の罠は、純真さの喪失の象徴で、その罠に捕らえられた兎を解放することで、ヘラルド(大人)は優しさを取り戻し、心を癒される。かなり抽象的な内容で、状況の説明もほとんどないことから、映画はどのようにでも解釈できるが、ここでは、スペイン語の2つのレビューを参考にした。

現在を黒字、過去を青字で示す。
① 何らかの衝撃を受け、アパートに閉じ籠るヘラルド(大人、白黒映像)。彼は、昔住んでいた田舎の家、しばらく放置されていた田舎の家に、逃げるようにして向かう(ここからカラー映像)。そして、着くとすぐ、小さな木箱を投げ捨てる。
② ヘラルド(子供)の母は、都会から、そして、夫から逃げて、田舎の家に引っ越す。ヘラルドは、着いたその日、近くの丸太小屋で変わった女性と出会う。その日の夜、母は、かかってきた電話を無視する。
③ ヘラルドは、家の準備をしてくれた近くの店の主人に会いに行き、兎狩用のライフルを借りる。
④ ヘラルドの初登校日。授業の前に、上級生の虐めに遭うフェリペを目撃する。休みの時間に、兎の後を追ったヘラルドは、兎に餌をやっているフェリペに遭遇する。夕食後、ヘラルドは、母に頼まれて、かなり離れた隣の家までライターを借りにいくが、そこで、“着いた日に出会った女性” のあられもない姿を目撃する。ライターを持ち帰ったヘラルドは、母の部屋で、小さな木箱拳銃を見つける。
⑤ ヘラルドは、森に行き、昔絵本で見た牡鹿に遭遇する。帰宅してから、兎を見て撃つが、外す。
⑥ ヘラルドがフェリペと兎に餌をやっていると、上級生がフェリペの顔を殴り、傷付ける。ヘラルドは、担任の聴取を受けるが、フェリペの希望に沿い、虐めのことは内緒にする。その夜、電話がかかり、最初の日と違い、母は積極的に電話に出るが、ヘラルドには それが面白くない。ヘラルドは翌日、小さな木箱を持ち出す。中には、結婚指輪が1つだけ入っている(母の別居が確定する)。ヘラルドは、またあの女性と会えないかと考え、隣の家に行くが、彼女はいない。そこで、最初に出会った丸太小屋に行くと、男とセックスの最中。それを相手の男に咎められたヘラルドは、必死に逃げ、護身用に拳銃を持ち歩くことにする。
⑦ ヘラルドのもとに、1人の女性が謝罪に訪れる。内容から、彼女は、ヘラルドが結婚する相手だったらしいことが分かる。そして、彼女が、ヘラルドを怒らせるような何をして、結婚式が行われなかったことも。ヘラルドは問答無用で彼女を追い払う。翌日、ヘラルドは、店主から兎の罠を借りる。
⑧ ヘラルドがフェリペと遊んでいると、上級生がフェリペの顔に石を投げつけ、かなりの傷を負わせる。怒ったヘラルドは拳銃を取り出し、ひざまずいて謝罪するよう命じ、上級生も渋々それに従う。上級生が逃げ出した後、ヘラルドが落とした拳銃を拾ったフェリペは、何故か兎を撃ち殺す。フェリペが拳銃を学校に持って来たことで、母は呼び出しを受け、校長から強く咎められる。
⑨ ヘラルドが前日仕掛けた罠に、兎が入っている。ヘラルドは、どうすべきか迷った挙句、夜になり、ライフルで撃つ。翌朝、心が癒されたヘラルドは、ライフルと罠を店に返しにくる。店主は、森で拾った小さな木箱をヘラルドに見せ、彼の物じゃないかと尋ねるが、ヘラルドは否定する。ここに来た夜にヘラルドが投げ捨てた小さな木箱の中には、指輪が2つ入っていた。このことから、ヘラルドは、先日訪れた女性と結婚することになっていたが、それを渡すことなく、縁を切ったことが確定する。ヘラルド(大人)が登場する最後のシーンは、その朝、罠に入っていた兎を森に行って放してやる場面。このとから、前夜、彼は兎を撃たなかったこと、それにより、すべての苦しみが癒され、すがすがしい朝を迎えることができた理由が分かる。
⑩ ヘラルドのクラスには、フェリペはいない。怪我が重いのか、登校拒否か、引っ越したのか? その夜も、母は、別れた夫からの電話を待ち焦がれている。2人に元通りになって欲しくないヘラルドは、電話の線を抜き、かかってこないようにする。これは、ヘラルドが行った最初の “良くない” ことで、それは、画面が白黒に戻ったことで象徴的に現わされる。

子供時代のヘラルド役は、パトリシオ・パスケル・ロドリゲス (Patricio Pasquel Rodríguez)。情報は何もない。

あらすじ

画面は白黒映像から始まる。鬱病気味のヘラルドが留守録を聞いている。「ヘラルド、どこにいる? 僕らは、これから君のアパートに向かう。もし、そこにいるなら、どこにも行かないでくれ。そして、携帯で返事をくれ。僕らは、君のことが心配でたまらん」(1枚目の写真)。次のシーンでは、ヘラルドは道端に停車した車の中にいる。因みに彼の車はマツダ3セダン。そこに、後ろからオートバイが近づいて停まる。2人は降りてハグし、バイクの男性が 「元気かい?」と尋ねる。ヘラルドは、それには答えず、タバコをもらうと火を点け、「鍵はどこ?」と訊く。バイクの男性は鍵を渡す。そして、「行き方、覚えてる?」と訊き、ヘラルドは頷く。「雑貨店に電話しておいた。水は出るようにしたが、電気は点かないので、玄関にランタンを置いておくと言ってた。残りは、明日やるそうだ」(2枚目の写真)。「ありがとう」。「君について訊かれたら、何と言えばいいのかな?」。「何も知らないと言えばいい」。そう答えると、ヘラルドは車を出す。車が田舎の片側1車線のハイウエイを走っていると、画面は白黒からカラーに変わる。車はかなりの距離走行したらしく、車が目的地の家の前に着いた時には、辺りは真っ暗。ヘラルドは、玄関の外に置いてあったランタンにライターで火を点け、その明かりを頼りに、男からもらった鍵で玄関のドアを開け 真っ暗な家の中に入る。水だけは出るようになっていたので〔水道の栓は屋外にある〕、手を洗った後、持って来た小さな木箱〔これから何度も出てくるが、蓋に、飾りの装飾が彫られている〕を取り出し、それを玄関の外まで持って行くと(3枚目の写真、矢印)、投げ捨てる。
  
  
  

ここから、写真の左端に黄色の帯が付く。ヘラルドが小学生だった時代に遡った映像だ。最初に映るのは、ヘラルドを乗せた母の車と、その後に続く引っ越し業者のトラック。はっきりとは分からないが、2人は、以前は都会に住んでいて、別居により夫から遠く離れた田舎に移ってきたらしい。だから、ヘラルドにとっては、初めて見る大きな森が珍しい。母は、「2人きりになる訳じゃないのよ」と安心させる。そして、家に到着。1つ前の “現在” のシーンで、大人になったヘラルドが、街から逃げて行き着いた先と同じ家だ。ヘラルドは、業者の搬入を邪魔しないよう、近くの探検に出かける(2枚目の写真)。家から一歩先は、手つかずの森。ヘラルドにとっては初めての経験だ(3枚目の写真)。
  
  
  

ヘラルドは、歩いているうちに、小さな丸太小屋を見つける(1枚目の写真)。近づいていってドアを開けると(2枚目の写真)、唯一の家具として置いてあったベッドの上に座っていたのは、20代後半の女性(3枚目の写真)。その時、母の呼ぶ声が聞こえたので、ヘラルドは何も言わずに立ち去る。
  
  
  

ヘラルドは、そのまま森を全速力で駆け抜け、家の前でずっと待っていた母に抱きつく(1枚目の写真)。「遠くに行っちゃダメよ。危険だから。どこにいたの?」。「探検」。夜になり、未整理の部屋で、ヘラルドは1冊の絵本を見ている(2枚目の写真)。母が入って来て、「ホントに夕食 要らないの?」と訊くと、ヘラルドは首を横に振る。「明日は、食料品を買いに行きましょ。何を読んでるの?」。「おはなし」。母が見に行くと、右のページには、一面に牡鹿の絵が描かれている(3枚目の写真)〔あとから出てくる牡鹿との関連大〕。ヘラルドは、「この鹿、殺されちゃう」と言い出す。「いいえ」。「でも、殺されちゃうんでしょ?」。「いいえ」。「それ確か?」。「確かよ」。
  
  
  

それからどのくらい時間が経ったのかは分からないが、電話が鳴り出す。母が出ないので、もう寝たのかと思ったヘラルドは、部屋から出て来て、「ママ! 電話だよ!」と呼ぶ(1枚目の写真)。しかし、電話は鳴り続け、母は出ようともしない。ヘラルドは廊下を歩いて居間までくると、母は暖炉の前に座っていた。電話機はすぐ後ろにあるので(2枚目の写真、矢印)、母は電話を意図的に無視していることになる。その様子を、ヘラルドは ドアのところでじっと見ている(3枚目の写真)。鳴りやまない電話は、別居して逃げ出してきた夫からなのだろうか?
  
  
  

そして “現在”。ヘラルドが眠っていると、玄関をノックする音で目が覚める。それは、ヒューズを取り替えにきた雑貨店の親仁(おやじ)で、鍵がないから入れないためのノックだった。ヘラルドは、すぐに玄関のドアを開け(1枚目の写真)、鍵を渡す。「鍵で煩わしません。終わったら、テーブルの上に置いておきます」。ヘラルドは、作業が終わってから、車に乗って買い出しに出かける。森の中の未舗装の道を走っていると、道の真ん中に兎が座っている(2枚目の写真)〔この映画で兎は重要な役を果たす〕。兎は、車など平気で動こうともしない。クラクションを何度も鳴らしても、反応すらしない。しかし、ヘラルドがドアを開けて外に出るようとすると、あっという間に逃げて行く。ヘラルドは、森の中の一軒家の店の前に駐車し、くすんだ店の中に入る。現れたのは、今朝、電気が着くようにしてくれた親仁。自らマティアスと名乗り、ヘラルドは、なぜか本名を隠してフェリペと名乗る〔フェリペは子供時代のヘラルドの友達で、虐められっ子〕。親仁が、物を取りに行っている間、一人になったヘラルドは、何丁も飾ってあった古い猟銃を手に取ってみる。親仁は すぐに戻って来て、「それは、いいライフルですよ」と声をかける。「これで、何を仕留めるんだい?」。「兎」。その返事にヘラルドはびっくりする(3枚目の写真)。「以前は、この辺で何でも狩れたんですが… 狼、鹿… 今は、山の上に行ってしまって」。「幾ら?」。「撃てるんですか?」。親仁は、裏庭に連れて行き、煉瓦塀の上の空き缶を撃たせるが、当たらない。そこで、基本的な知識を与えて撃たせる(4枚目の写真)。それでも、初心者なので当たらない。「これ、売り物?」。親仁の申し出は、極めて好意的。販売はしないが、タダで借りれて、弾薬代を払うだけでいい。さらに、ライフルがダメなら罠を貸してあげてもいい、というものだった。
  
  
  
  

地元の学校に初めて当校〔遠距離なので、母が車で送る〕したヘラルドが入口の柱の陰から見ていると、タッパーを手に持った少年がびくびくしながら通路を歩いてくる。すると、ベンチに座っていた2人が、いきなり立ち上がると、少年を後ろから突き飛ばし、つまづいた拍子にタッパーの蓋が外れて、中に入っていた野菜〔兎の餌〕が飛び散る(1枚目の写真、矢印)。ヘラルドは、その虐めをじっと見ている(2枚目の写真)。2人の悪たれのうちの1人が、初めて見る顔だとばかりにヘラルドを見て行くが(3枚目の写真、矢印は野菜を拾っている少年)、彼は相手にしない。
  
  
  

授業の始まる前に、転校生としてヘラルドが紹介される(1枚目の写真)。ヘラルドは窓際の席につくよう指示される。同じ列にさっきの少年がいたので、ヘラルドは体を前のめりにして見てみる(2枚目の写真)。すると、前の席の女の子が、「彼って変なのよ。何もしゃべらないし、この前、ズボンにおしっこしたの」と、軽蔑したようにヘラルドに教える。確かに、他の子が、出席をとるため正面を向いているのに、一人だけ机にへばりついているのは変人だと思われても仕方がない(3枚目の写真)。
  
  
  

昼休み(?)、上級生の悪ガキの集団が、大人向けの雑誌を見て悦に入っている。すると、そこにヘラルドが近づいて来る。タッパーを持った少年を殴ったワルが、それに気付いてヘラルドに寄って行く。そして、「お前見たいか?」と訊く。ヘラルドは ワルを睨むだけで何も言わないので、別のワルが 「お前に話しかけてるんだぞ。どうする、裸の女の子見たいか?」と訊く。最初のワルは 「こいつ、弱虫だ。顔を殴られたくなかったら、どっかに行っちまえ、このクソチビ」と言い、それでもヘラルドは睨み続ける。そして、ワルが殴るような仕草で一歩踏み出すと、それに合わせて一歩下がる〔護身術をわきまえている〕。それを見て、ワルは相手にしないことに決める。ヘラルドは、不良どもがいなくなったのを見極め、通路を少し戻ると、茂みの中に1匹の兎がいるのに気付く(1・2枚目の写真)。兎は逃げて行ったが、ヘラルドは茂みの中の踏み跡に入って行く。しばらく行くと、踏み跡はなくなり、ヘラルドは枝につかまって小川まで降りると、木の板が架けてあったので、対岸に渡る。すると、そこでは、例の少年がタッパーの中身の野菜を兎に食べさせている。そして、木の陰から覗いて見ているヘラルドの気配を感じたのか、振り向く(3枚目の写真、矢印は兎)。ただし、ヘラルドはそのまま立ち去ったので、本当に気付いたのかどうかは分からない。
  
  
  

その日の夕方、母は野菜だけを使った簡単な夕食を作る。そして、食卓の端に座ったヘラルドの前にその皿を置き、自分は、行儀悪く膝を立ててイスに座ると、タバコを吸う(1枚目の写真、矢印は立膝)。ヘラルドが、食べ物をもてあそんでいるだけで食べようとしないのを見て、「全部食べなさい」と注意する。「第一日目、どうだった?」。「いいよ」(2枚目の写真)。「お友だち、できた?」。「1人」。「すぐに、街にいた時みたいに、いっぱいできるわ」。それでも、ヘラルドはちっとも食べようとしない。「野菜が終わったら、頼みごとがあるの」。ヘラルドは笑顔になって頷く。「お隣に行って、ライターを借りてきてくれる?」〔森の中の一軒家なので、隣と言っても遠い〕。「お隣?」。「そうよ、怠け者さん」。そう言うと、母は、冗談で 思い切り舌を出して見せる。それに対し、ヘラルドは目を寄せ、2人で変な顔ごっこを始める(3枚目の写真)。
  
  
  

ヘラルドが、土道を かなり歩いて行くと、古いビートルが閉まった鉄扉の前に停まっている。扉から家までは数十メートルくらい離れている。ヘラルドは、家に向かって「今日は!」と呼びかけるが反応はない。そこで、鉄扉の脇に付いていた回転式の鉄鈴を回してみるが(1枚目の写真)、ヘラルドの声の方が余程大きいので、相変わらず反応はない。鉄扉に鍵は掛かってなかったので、ヘラルドは、時々「もしもし」と言いながら、家のドアを開けて中に入り、ダイニングキッチンを覗き、居間に入り、2階に上がって行く。そして、思わずびっくりして目を見張る(2枚目の写真)。それは、昨日、丸太小屋の中で見た女性が、下着姿でソフェに横になって本を読んでいたから。人の気配を感じた女性は顔を向ける(3枚目の写真)。そして、体を起こすと、「ここで何してるの?」と訊く。「ママに、ライターを借りて来いと頼まれて」。「何て名なの?」。「ヘラルド」。「ライターなら、食堂のテーブルの上に一杯あるわ」。そう言うと、女性は、あられもない姿で立ち上がると、姿を消す。ヘラルドは1階に駆け降りると、ライターを1個拝借し、走って家から出て行く。
  
  
  

ヘラルドが家に戻ってくると、母は、まだ明るいのに 寝室でうつ伏せになって眠っている〔荷物は未整理のまま積んである〕。ヘラルドは、そのまま部屋に入って行くと、サイドテーブルの上にライターを置く(1枚目の写真、矢印)。ヘラルドは、母が眠っているのを見ると、好奇心からサイドテーブルの引き出しの中を見てみる。中にあったのは、小さな木箱拳銃だった(2枚目の写真)〔この彫り物のある小さな木箱は、大人になったヘラルドが、この “家” に着いた夜に投げ捨てたもの〕。ヘラルドは、そのまま そっと引き出しを閉める。そして、ドアの所まで戻ると、母の方をじっと見る(3枚目の写真)〔ヘラルドは、母が拳銃を持っていることに驚く〕
  
  
  

3度目の “現在” は、ヘラルドが家の中の鏡に布を被せているところから始まる〔理由は不明、後で関連した場面がある〕。その後、ヘラルドはライフルを持って森に入って行く。ヘラルドは森を抜け、大きな湖の岸に出る〔様子から見て、彼が初めて見る湖のようだが、子供時代にここまで来なかったのだろうか?〕。ヘラルドは湖畔に沿って歩いているうちに、古いボートを見つける(1枚目の写真)〔あとのシーンで利用する〕。ヘラルドは、もう一度森を通って家に戻る途中で、思わぬものに出会ってびっくりする。親仁に、「今は、山の上に行ってしまって」と言われた牡鹿が目の前に現れたのだ。しかも、昔見た絵本と同じような様子で、じっとヘラルドを見つめる(2枚目の写真)。鹿は立ち去り、ヘラルドは家に戻り、ベランダでケーキを食べ、コーヒーを飲んでいると、1匹の兎が現われる。ヘラルドはライフルで狙いを付け1発撃つ。しかし、現地に行ってみると、兎はおらず、地面に血が何滴か落ちていた。ヘラルドは、指先に付け、それが血であることを確かめる(3枚目の写真、矢印は血の付いた指)。
  
  
  

翌日、ヘラルドは、もう1人の少年と一緒に 兎に野菜を食べさせている。ヘラルドがニンジンを兎に渡すと、少年は 「ニンジンが好物なんだ」と教える。ヘラルドが、「この兎、何て名?」と訊くと(1枚目の写真)、名前など付けていない少年は、肩をすくめる。ヘラルドの質問は続く。「なぜ、家に連れ帰らないの?」。「僕の家じゃ、兎はダメなんだ。だけど君さえよければ、家に連れて帰れば? バックパックにちょうど入るし」。「僕の家でも、ダメだと思うよ」。すると、物音がして、少年は急に神経質になり、餌やりを止める。2人が、ヘラルドを先頭に 茂みの中を学校に戻って行くと、ワルが背後から急に現われる。そして、少年の顔に一発お見舞いし、少年は倒れる(2枚目の写真)。ヘラルドは倒れた少年の前に割り込み、これ以上の暴力を止めさせる。ワルが去った後、少年の顔を起こすと、下唇から出血している(3枚目の写真、矢印)。
  
  
  

ヘラルドは、さっそく、少年を学校の保健室に連れて行く。保健婦は、虐めが原因だと思い、担任の教師を呼び、2人で中に籠り、ヘラルドはドアの外から声が聞こえないかと耳を当てる(1枚目の写真)。足音が聞こえたので、ヘラルドはドアから離れてイスに座る。ドアを開けて担任が出てくると、ヘラルドに、「フェリペ〔少年の名。大人になったヘラルドが、親仁に教えた “虚偽の自分の名前”〕は 転んだ時に、石で口を切ったと言うけど、それホント?」と訊く。しかし、担任の失敗で、ドアは開いたまま。ヘラルドが、中を見ると、フェリペの顔は、“言っちゃダメ” と言っているように見える(2枚目の写真)。担任は、ドアを閉めるが、遅すぎた。ヘラルドは、フェリペの希望通りにしようと決心し、「フェリペに何があったの?」との質問に、「彼が言った通り、転んだんです」と嘘を付く(3枚目の写真)。担任は、さらに、「もし、誰かが彼に何かしたのなら、知っておけば、二度と起きないと思わない?」と、虐めの実態を把握しようとするが、ヘラルドは、あくまでフェリペを庇う。
  
  
  

ヘラルドが、射手の絵のページを見ていると、電話が鳴り出す(1枚目の写真)。ところが、最初の時と違い、1回で鳴りやんでしまう。そこで、ヘラルドは、どうなっているのか確かめようと、母の部屋までこっそり近づいて行く。母は、居間から延長コードで電話機を寝室まで持って来て話している。「電話がまだつながってなかったの(2枚目の写真)〔嘘。ワザと出なかった。だが、なぜ? そして、今回は なぜ電話に出たのか?〕… ヘラルドは寝てるわ…」。ヘラルドは、長い電話線をこねくり回して聞いている(3枚目の写真)。「ううん心配しないで、私たちには必要ない… 何も起きないから… ええ、引き出しの中にあるわ小さな木箱 or 拳銃… そのことは話したくない… 言っておくわ〔ヘラルドに〕… お休みなさい」〔このシーンは、最も重要な会話で、彼女の状況を示すのは、ここしかない。しかし、これだけでは、何が何だか分からない〕
  
  
  

翌朝、ヘラルドはバッグパックを背負って、ベランダで休んでいる母の前に立つ。「どこに行くの?」。「遊んできていい?」(1枚目の写真)。「遠くに行っちゃダメよ」。ヘラルドは、首を横に振る。「バッグパックの中は何?」。「探検だよ」。ヘラルドは、母から見えなくなる所まで来ると、すぐにバックパックを外し、ジッパーを開ける(2枚目の写真)。中から出てきたのは、ヘラルドが内緒で持ち出した彫り物のある小さな木箱。蓋を開けると、中に入っていたのは、母の結婚指輪だった(3枚目の写真)。
  
  
  

がっかりしたヘラルドは、そのまま “隣の家” に行き、前と違い平気で中に入って行く。玄関では、「もしもし」と言うが、そのまま、また下着の女性に会えないかと2階に向かう。しかし、期待に反してそこに彼女はいなかった。前にはすぐ逃げ出した2階を、今度はあちこち歩き回る。すると、雑然と本や資料が書棚に置かれた中に埋もれるように、“女性の父親” と思われる人物が、惰眠をむさぼっていた(1枚目の写真)。それを見たヘラルドは、すみやかに退散する。代わりに行ったのが、彼女と最初に会った丸太小屋。しかし、今度は、入口にナタの入った鞘(さや)がぶら下げてある。それに、変な声も聞こえる。ヘラルドが板の隙間から中を覗いてみると(2枚目の写真)、ベッドの上では裸の男女がセックスの真最中。しかし、女性の顔がちょうど正面に見え、板の隙間も広いので、女性が最初にヘラルドに気付き、それにつられて男も顔を上げる(3枚目の写真)。男は、「クソガキめ」と言うと、女性から離れたので、ヘラルドは危険を感じて全力で逃げ出す。
  
  
  

男は ズボンを履くと、ナタを手に持ち、ヘラルドの後を追う。ヘラルドは、倒木の陰に身を潜める。ヘラルドの姿を見失った男は、「何を見た? どこにいる? 出て来い、クソッタレ!」と叫ぶ(1枚目の写真、矢印は分かりにくいがナタ)。そこに、女性がやってくる。「黙りなさいよ! 子供じゃないの!」。男は、それを無視して、「貴様、のぞき見が好きなのか?!」と叫ぶ。「やめなさい! なんてバカなの」。「なら、お前は売女(ばいた)だ」。最低の男だ。隠れていたヘラルドは、誰もいなくなったと確信できるまで待ち、走って家まで逃げ帰る(2枚目の写真、右下はバルコニーで眠ってしまった母)。ヘラルドは、母の寝室に行くと、引き出しに小さな木箱を戻し、代わりに拳銃を手に持つ(3枚目の写真)。
  
  
  

4度目の “現在”。あれからかなり日数が経ち、ヘラルドの髭が本格的に伸びている。ヘラルドがいつものようにライフルを手に森に入って行くと、1発の銃声が響き渡る。ヘラルドが音のした方に近づいていくと、そこでは親仁が、仕留めた牡鹿をナイフで解体していた(1枚目の写真、ナイフ)〔ひょっとして、以前ヘラルドが遭った牡鹿かも〕。ヘラルドが、何の収穫もなく家に近づくと、家の前に別の車が停まっていて、家の中には明かりが点いている。場面は変わり、家の中で女性が冷蔵庫の中を覗いている。ヘラルドは、いきなり、「ここで何してる?」と詰問する。「脅かさないで。兄から、あなたがここにいると聞いたわ」。「君には、ここにいる理由がない」。「話し合いが必要だわ」。「必要ない」。「私の話を聞いてもらうまで、出て行かないから」。「聞きたくない」。「なぜ、全部の鏡を覆ったの?」。返事はない。「大丈夫?」。「必要なことをしてる」。「あのあと、私がどんな思いをしたか、あなたには分かってない。私は、一睡もできなかったのよ」。「僕はよく眠れた」。「あなたが怒るのは当然よ」。「どうして、僕が怒ってると思うんだ?」。「どちらにしても、説明したいの」。「説明などいらない」。「それでも、なぜ私がしたのか、知って欲しいの」(2枚目の写真)。「つんぼなのか?」。女性はヘラルドの手に触ろうとするが、彼は手を引っ込める。そして、タバコに火を点けて口にくわえと、ライフルに手をかける。「あなたがいつもするように、コーヒーでも飲まない?」。ヘラルドは、タバコを机に押し付けて火を消すと、ライフルをつかみ、チャージングハンドルを引いて銃弾を装填する(3枚目の写真)。問答無用の対応に、女性は無言で立ち上がると、家を出て行く〔冒頭の「僕らは、君のことが心配でたまらん」の留守電、昔住んでいた家への突然の来訪、今まで撃ったことのないライフルへの没頭の理由を解き明かす唯一の機会だが、ここも非常に曖昧で、いったい何が起きたのかよく分からない。少し、先のシーンで、ヘラルドが投げ捨てた小さな木箱の中身は、2つの指輪だと分かる。このことから、その夜、訪れた女性は、ヘラルドの婚約者で、女性が何かヘラルドを激怒させるようなことをしでかしたため(「あなたが怒るのは当然よ」)、結婚式の日に姿を見せなかった(「あのあと、私がどんな思いをしたか」)可能性が示唆される〕。翌朝、ヘラルドは親仁の店を訪ねる。「兎はどうなってますか?」と訊かれ、「頭のいい動物だね」と答えると、親仁は兎専用の罠の使用を勧める(4枚目の写真)。そして、使い方を教える〔貸しただけで、使用料はタダ。しかし、なぜ そんなに好意的なのだろう? その理由は、最後まで分からない。ヘラルドがフェリペと名乗ったことが関係しているのだろうか? しかし、ヘラルドの少年時代に、10数年後にこのような老人になる人物は登場しなかった〕。ヘラルドは、ボートに乗り、湖の対岸に渡り、兎の罠を仕掛ける。
  
  
  
  

朝、ヘラルドは兎用の野菜をタッパーに詰める(1枚目の写真)。そして、「ママ、行くよ!」と叫ぶが、2階の母は、電話機と一緒にベッドで眠ったまま(2枚目の写真)。何度も呼ばれてようやく目を覚まし、「今行く!」と答える。ヘラルドが、車に乗って待っていると、ようやく着替えた母が家から出て来る。車に乗った母が、ヘラルドに 「朝は早かったの?」と訊いても、ヘラルドは返事もしない。代わりに 「彼とは話して欲しくない」と、夜の長電話を批判する(3枚目の写真)。母の返事もすげない。「おせっかいはやめて」。そして、それ以上何も言わずにエンジンをかける。
  
  
  

ヘラルドが いつもの柱のところで待っていると、フェリペが用心しながら歩いてくるのが見えたので、ヘラルドは近づいて行き、「痛い?」と訊く。フェリペは首を横に振る。いつもの自由時間、2人は、茂みの中で狩人ごっこをして遊ぶ。ヘラルドが狩人で、フェリペが牡鹿だ。すると、その前に、天敵のワルが2人現れる(1枚目の写真)。ワルは 「何してる、弱虫ども?」と訊く。ヘラルドは 「余計なお世話だ」と 何も恐れずに反論する。卑劣なワルは、手に持っていた直径5センチはありそうな石をフェリペの顔に投げつけ、フェリペはその場にうずくまり、額から血が流れ落ちる。ワルは、同じ大きさの石をもう1つ持っている。ヘラルドは、素早くバッグパックに駆け寄ると、拳銃を取り出して、まっすぐワルに向ける。「石を捨てろ」。ワルはすぐに石を落とす。「ひざまずけ」。ワルが立ったままなので、ヘラルドは声をはり上げる。「ひざまずけ!」。ワルは跪く。「あやまれ」。気の弱い手下が逃げ出す(2枚目の写真)。ワルが謝らないので、ヘラルドは、「あやまれ!」と怒鳴る(3枚目の写真)。「ごめん」。そう言うと、ワルは、徐々に向きを変え、走って逃げ出す。ヘラルドは、拳銃を捨て、石を拾うと、ワルに向かって投げるが、もう茂みの中に逃げ込んだので当たらない。ヘラルドは、「どこに逃げた? 出て来い、クソッタレ!」と叫ぶ。
  
  
  

すると、背後で射撃音が聞こえたので、ヘラルドは びっくりして振り向く。フェリペは、手にした拳銃をポトリと落とす。額から流れ出た血は、顎にまで達している。昨日の唇の傷も残ったままだ(1枚目の写真)。ヘラルドが地面を見ると、そこには可愛がっていた兎の撃たれた死骸が横たわっていた(2枚目に写真)。なぜ、フェリペは こんなバカなことをしたのだろう? 友人だと思っていたフェリペに、ヘラルドは “問い掛け” の眼差しを向ける(3枚目の写真)。
  
  
  

ヘラルドは顔を下向けてイスに座り、それを担任がじっと見ている〔恐らく、ヘラルドは担任による事情聴取を終えていた〕。そこに、校長と一緒に母が入って来る。母は、ヘラルドの横のイスに座る(1枚目の写真)。担任は、母に、「なぜ、呼ばれたか分かりますか?」と質問する。母は軽く頷き、タバコを吸おうとして、校長から、校内は禁煙だからと止められる。校長は、さらに、ヘラルドに外で待つよう指示する。最初に口を開いたのは、担任。「これは非常に深刻な問題です。私たちは、あなたの息子さんのことを心配していますが、このような事件が起きたこと、火器の使用は、すべての生徒を危険にさらします」。そして、校長(2枚目の写真)。「このようなことは、私が校長になってから一度も起きたことがありませんし、二度と起こすようなことは許しません。子供が、銃器を入手し、それを学校に持ってくることが、何故できたのか、私には到底理解できません。罪は子供にはありません。大人にあります。あなたにです」。罪の重さを感じた母は、涙を浮かべて反省する(3枚目の写真)〔確かに拳銃の持ち込みは悪いことだが、その根底には、重大な虐めに対する学校側の見逃しがある。今回、ヘラルドが拳銃を持って来ていなかったら、彼もワルの投げた石で 最悪片目を失っていたかもしれない(ワルはフェリペの顔に石を投げつけた)。その点につき、校長は、一方的に母を泣かせるだけでなく、自ら反省の弁を述べるべきではないのか?〕。その間、部屋の外で待たされているヘラルドは、自責の念に苦しんでいる(4枚目の写真)。
  
  
  
  

5度目で最後の “現在”。前回の翌朝。ヘラルドは、兎の罠を仕掛けた後、そこで一晩を明かし、朝、目覚める。すると、1匹の兎が罠にかかっていた(1枚目の写真)。ヘラルドは、罠ごと兎を持ち帰り、タバコを山ほど吸い、酒を何杯も飲んで、どうしようかと丸1日考える。そして、ライフルを取り上げると、罠のところに行き、蓋を開けて狙いをつける。そこまでは、室内での映像だったが、ここで窓の外からのガラス越しの映像に切り替わり、ヘラルドがライフルを撃つ(2枚目の写真)。そして、再び室内での映像に戻り、ヘラルドが泣き崩れる。そして、翌朝、ヘラルドは親仁の店に、兎の罠を返しに行く(3枚目の写真)〔髭を剃り落としている!〕。ヘラルドは、罠だけでなく、ライフルも返却する。
  
  
  

ヘラルドは、「うまく行ったか、尋ねないのですか?」と親仁に訊く。返事は、「訊く必要はありません。分かっています。こんなに早く持ってこられるとは思っていなかったので」。「ご推察の通り。すべてに感謝します」。そう言って、2人は握手する(1枚目の写真)。ヘラルドが出て行こうとすると、親仁は、「フェリペさん」と呼び止め、「数日前に偶然森の中で見つけたんですが… これはあなたのものでは?」と言うと、彫り物のある小さな木箱の蓋を開け、2つの指輪を見せる(2枚目の写真)〔1つは、夫になるヘラルドの、もう1つは、先日追い払った女性に、結婚式の時に渡すハズだったもの… らしい〕。ヘラルドは、「僕は、フェリペじゃなく、ヘラルドです」とだけ言うと、指輪については何も語らずに店を出て行く。車に戻ったヘラルドは、ルームミラーに映る自分の目をじっと見つめる。そして、おもむろに車を出す。その後に映る映像は、その日の早朝のものであろう。ヘラルドは、兎の罠を持って森の中に行き、昨夜、結局、殺さなかった兎を解放してやる(3枚目の写真、矢印は兎)〔これは、妻になるハズの女性から与えられた衝撃で打ち砕かれたヘラルドの心の癒しを意味する。剃り落した髭、嘘の名前の撤回もその証拠〕
  
  
  

ラストの少年時代。ヘラルドは、草むらの中でナタを振り回している(1枚目の写真)。それを遠くから見ているのは、あの女性(2枚目の写真)〔この2つの場面は、意味不明〕。場面はすぐに切り替わり、授業風景に。担任は、ヘラルドと一瞬目が合うと、笑顔を見せる。ヘラルドは、以前のように体を前のめりにしてフェリペの席を見てみるが、そこは空席(3枚目の写真、矢印)〔怪我がひどくて休んでいる?〕
  
  
  

家では、居間の暖炉の前に陣取った母が、いつ電話が掛かってきても、すぐに出られるように、用意して待っている(1枚目の写真)。それを、ドアから見たヘラルドは(2枚目の写真)、2人に仲直りして欲しくないので、電話機のアナログ回線のコネクタを外してしまう(3枚目の写真)。“大人として良くない判断” をしたヘラルドの顔は、映画の冒頭と同じ白黒画面となり(4枚目の写真)、ここで映画は終わる。
  
  
  
  

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